コンテンツへスキップ

カート

カートが空です

記事: 「背徳」と「伝統」が交わる場所

「背徳」と「伝統」が交わる場所

西陣織三代目・田中伝氏インタビュー

京都・西陣。
応仁の乱の“西軍の陣”に由来するとされるこの土地で、90年以上にわたり帯を織り続けてきた織元〈田中伝〉。


今回、日本伝統刺青と西陣織を融合させたブランド「SUMIYOROSHI」の制作にあたり、ブランド代表・Sezuki氏が、三代目の田中伝氏に話を伺った。  

刺青という“裏文化”と、西陣という“表文化”。
本来なら交わらなかったかもしれない二つの伝統が、なぜ今回結びついたのか。

そこには、”古いものを守る”とは、単に過去を保存することではなく、“今の時代に生きる形へ変えていくこと”なのだという、職人の思想があった。




「西陣」は、戦国時代から続く名前

「西陣っていうのは、“西の陣”なんですよ」

そう語る田中氏。
西陣という地名の由来は、応仁の乱にまで遡る。

「応仁の乱の時に、西軍がこの辺りに陣を構えていた。それが“西の陣”になって、“西陣”になったんです」

室町時代から続く織物文化。
とはいえ、当時は今のような産業ではなく、職人たちが手織りで少しずつ織っていたという。

「本格的に広がったのは、ジャガード機がフランスから入ってきてからですね」

田中伝の創業は昭和4年。
初代・田中伝吉氏が旗を織り始めたことから、その歴史は始まった。

現在は三代目である田中氏、そして四代目・識章氏へと受け継がれている。

「うちはまだ100年いってませんから。90年弱くらいですね」

そう謙遜気味に語るが、日本国外の感覚からすれば、90年続く工房自体が極めて稀有な存在だ。


静まり返った工房で機と向き合う、田中伝四代目・田中紀明氏。  受け継がれてきた西陣の技術に、現代的な感性と新たな挑戦を織り込んでいく。静まり返った工房で機と向き合う、田中伝四代目・田中識章氏。
 受け継がれてきた西陣の技術に、現代的な感性と新たな挑戦を織り込んでいく。



「刺青の柄」を、西陣で織るという挑戦

今回、SUMIYOROSHIが依頼したのは、“刺青の渦”をモチーフにした帯地制作だった。

「正直、日本ではなかなか引き受けてもらえないと思ってたんです」

そう語るSezuki氏。
日本では今なお、刺青文化に対する偏見は根強い。

しかし田中氏は、その依頼を真正面から受け止めた。

「せっかく言っていただいたんで、チャレンジしてみようかな、と」

西陣織には、できることとできないことがある。
刺青の線の流れ、曲線の出し方、織物として成立させるための制約。

「ここはこう潰れる、とか、これは織れない、とか、一緒に相談しながらやりましたね」

単なる発注者と工房ではない。
互いの表現領域を理解しながら、“成立するギリギリ”を探っていく共同制作だった。



「黒」だけで、ここまで違う

インタビューの途中、田中氏は過去に制作していた“喪服帯”について語り始める。

実は田中伝は、初代・二代目の時代、黒喪帯を専門としていた。

「昔は、お葬式の黒い帯ばっかりやってたんですよ」

その中でも特に特徴的なのが、“古代泥黒染め”と呼ばれる深い黒。

「黒でも、全然違うんですよ。浅い黒じゃなくて、濃い黒」

赤を下染めにするか、青を下染めにするかでも、最終的な“黒の深み”は変わるという。
今回のSUMIYOROSHIの制作でも、その黒の差は大きな意味を持った。

「渦の帯を作る時も、黒が全然違った」

ただ黒いだけではない。
光を吸い込むような深み。
沈黙のような艶。

それは、刺青文化の持つ“静かな迫力”とも不思議な共鳴を見せていた。



「同じものは作らない」という文化

西陣の世界には、量産とは真逆の価値観が存在する。

たとえば舞妓の「だらり帯」。

「同じものを二本作ったらあかんのです」

特に朱色の流水柄は、完全一点物。
舞妓同士で柄が被ることは許されない。

「お客さんのところに行った時に、同じ帯が二つあったらダメなんですよ」

つまり、西陣には昔から“唯一無二”を前提とした文化が存在していた。

SUMIYOROSHIが掲げる”同じ生地からは二度と作らない”という思想とも、どこか深く重なっている。



帯は、もっと自由でいい

インタビュー後半。
田中氏は次々と、新しい帯表現を見せてくれた。

虎が飛び出す立体帯。
パンダが背中に現れる帯。
猫の足が前結びから覗く帯。
リバーシブル仕様の遊び帯。

そこには、“伝統工芸”という言葉から想像される堅苦しさはない。

「どんな格好でもいいと思うんですよ、今は」

着物警察、着付けポリス。
そんな言葉が出るほど、着物文化には“正しさ”が求められる場面も多い。

しかし田中氏は、むしろ自由に楽しむことこそが、文化を生かす道だと考えている。

「こういうの見てると、自由に楽しんでいいんだなって思いますよね」

その姿勢は、まさにSUMIYOROSHIとも重なる。

伝統を壊すのではなく、
伝統を“現代に生きる形”へ変えていく。


田中伝の工房に並ぶ、多彩な帯地の数々。伝統柄から動物、妖怪、ポップアートまで。「帯はもっと自由でいい」という思想のもと、西陣織の可能性を広げ続けている。



「裏文化」と「表文化」のクロスオーバー

刺青は、長く“裏街道”を歩んできた文化だ。
一方、西陣織は、日本を代表する“表文化”。

本来なら、接点など存在しなかったかもしれない。

しかし今回、その二つは交わった。

「芸術同士のクロスオーバーですよね」

Sezuki氏のその言葉に、田中氏も笑いながら頷いた。

「こういうことをやってるから、できたんですよ」

古い文化同士だからこそ、生まれる新しさがある。
SUMIYOROSHIが目指しているのは、“伝統を現代に翻訳する”ことなのかもしれない。
そしてその背景には、90年以上織り続けてきた職人たちの挑戦がある。



インタビュー/Sezuki
写真/Eri Tsuruma
文章/Megumi Tamura

Read more

日本伝統刺青 × 西陣織ブランド「すみよろし/SUMIYOROSHI」始動

日本伝統刺青 × 西陣織ブランド「すみよろし/SUMIYOROSHI」始動

背徳は、やがて伝統になる。 刺青と織物。 日本の二つの文化が交差するブランド すみよろし/SUMIYOROSHI が誕生しました。 すみよろし/SUMIYOROSHIは、日本の伝統刺青文化と京都・西陣織を融合させたプロダクトブランドで、西陣織の帯地や泥黒染など、日本の伝統素材を用い、日本の職人によって一点ずつ丁寧に制作されています。 同じ生地による再生産は行わず、すべての作品は限定制作の...

もっと見る